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コンピュータを使って利用者の体型合わせた編図を作る計画

電脳編図計画

セーターやカーディガンなどの身に付けるものを編む場合、マフラーなどとは違って出来上がるサイズをコントロールすることが重要になってきます。初心者には、スワッチ(試し編み)を全く編まないでいきなりセーターを編み始める人が多いのですが、これでは出来上がるサイズは運次第ということになります。最悪の場合、着れないものが出来上がります。

スワッチを編むことの重要性は「初めてのセーター」の中にも書いたのですが、スワッチを編み、ゲージを取ることで、編地を構成する編目の大きさ、つまり計算の単位が得られます。

これでまず一つの問題が解消されるのですが、次の問題点は、「どのような大きさの編地を作ればよいか」ということです。これには、二つの考え方があるでしょう。一つは何も考えず編み物本に書いてあるサイズどおりに作るということで、もう一つは着る人にあったサイズに作るということです。

こう並べて書くと、着る人のサイズに合わせて作るほうが決定的に優っている、と思われるかもしれませんが、あながちそうとも言えません。第一にニットの編地は柔軟性があり、自然に体にフィットするようになっています。第二に手編みの場合、いくら計算してもそう計算通りに正確に編めるものではありません。第三に私たちは中世の貴族とは違い、既成服を着る文化の中に生きています。したがって、自分の体に100%フィットしない服を身に付けることは文化的に十分許容されていると考えられます。(わざと自分の体に合わない服を着るということがファッションになったりもします。)

これらを総合的に考えると、編み物本のお手本どおりに作ってもそう大きな問題はないでしょう。ゲージを取らずに編み始めるのは、糸の切れた凧みたいなもので、どこへ飛んでいくか分からないのですが、編み物本に合わせて作品を作るのは、それに比べるとコントロールが効いています。一応、糸はついているということです。もともと手芸というのは、お手本を真似することが多い趣味です。刺繍・トールペイント・ぬいぐるみ、どれもお手本や型紙があって、それをなぞって作ります。これらの手芸を必ずオリジナルで作らなければならない、と限定してしまえば、楽しみよりも苦しみの方が多くなってしまうかもしれません。ですから、私たちは初心者の方が、最初のうちは編み物本の通りに編むことはむしろいいことだと思います。ともかく編み上げるだけで精一杯のときは、あまりあれこれ欲を出さないほうがかえっていい結果になると思いますので、最初は本に載っている糸、本に載っているゲージ、本に載っているサイズに、仕上げるようにすればいいと思います。

しかし、いくら針を換えても本に載っているゲージどおりには編めない場合や、体型が標準から大きく違う場合は、そういうわけにもいきません。どうしても本に載っている目数・段数を変えなければいけなくなります。これらは調整が必要な理由のうち、消極的なものですが、実はせっかく時間を手編みをするのですから、自分の体に合わせたり、自分の好みの着丈・袖丈に調整するほうが絶対に楽しいのです。ですから、少しでも編み物に自信が出来てきた方は、できれば早くサイズを工夫することをお勧めします。もちろんサイズをいじるとさまざまなリスクがありますので、無責任なことは言えないのですが、標準体型から外れた人の場合、元々お店で買える服の種類が少なく、それでなくともストレスが溜まりがちなのですから、自分の体型に合わせた服が一着できるという、千載一遇のチャンスを逃す手はありません。楽しく、前向きな気持ちでサイズ調整をしたいところです。

ここまで読んで、暗い気持ちになった初心者の方もいるかもしれません。だいたい「サイズ補正」というのはそれだけで一冊の本があるくらい、面倒なものです。ゲージが違うと、割り算や掛け算が必要ですし、編み物の場合、一個所の目数の違いは全体に影響をあたえます。偶数でないといけないところ、奇数でないといけないところ、四の倍数+2でないといけないところ、サイズが一致しないといけないところ、などを考えながら計算するのは、ただでさえ面倒です。

その上、日本の編み物製図はやたらに細かな技法を凝らしているものが多く、恐ろしくなることがあります。おそらく、趣味でここまで複雑な製図を扱うのは日本くらいなものではないかと思います。文句無しに世界一でしょう。それ自体はいいことですが、ともかく初心者には面倒すぎます。一方に補正原形や立体製図を誇る上級者があり、もう片方にスワッチさえとらず編んでいく初心者があるという状況には、いびつなものを感じてしまいます。製図法の教え方にしても、作図ステップ自体は非常に細かいのですが、その根拠となる考え方への理解を深めようというのではなく、ただ図の書き方の手順を覚えさせるというような感じで、数式問題に強く応用問題が苦手な日本の受験生の姿にかぶってきます。製図法は音楽で言えば譜面の書き方のようなもので、問題は現実の場面でどう生かすかにかかっています。上手な人はみんな自分なりの工夫やノウハウを持っています。

上手く使えば便利な製図ですが、実は上級者の中でも、製図は面倒で嫌われるものの筆頭にあり、技術は持っているのに、製図が面倒だから本の通りに編むというような本末転倒のような話も聞きます。実際、特殊な用紙や定規を使って、細かい図を書き、トレーシングペーパーを使って方眼紙を手書きしているようなやり方を見ていると、いくらなんでももう少し手軽な目安や考え方があっていいのではないかと思います。例えばアメリカの本などでは、フィット感のある袖の場合は、袖山の高さは袖幅の3分の2とする、そうでないときは5センチ程度とする、などという大まかな目安が載っています。これが正しいかどうかは別にしても、もうすこし手軽な製図法は初級者・上級者を問わず必要に思えますが、どうもそういう大まかな情報にはあまり出会いません。おそらくコツを持っている人は多いのでしょうが、「これは本当のやりかたでないから」と表にださないのかもしれません。

計算が面倒であれば、コンピュータを使えばいい、というのは当然の考え方で、実際に「ニット電卓」なる電卓が市販されていますし、パソコン用の製図ソフトとして、日本ではWinKnit、アメリカではDesignaKnit7というようなソフトがあります。 これらは便利なものですが、基本的に上級者がきちんと製図をする際に役立つソフトで、使いこなすのにはそれなりの知識が必要です。オリジナルデザインを作る場合には、とても役にたつかもしれませんが、初心者でいきなりオリジナルデザインを作る人はそういません。普通は、本に載っている気に入った作品を編みたい、しかし、それをなんとか「自分サイズ」にしたい、という事が多いのではないでしょうか。

このような要望に合わせて、S、M、Lの3サイズの編図が載った本もあります。しかし、全体的にはそのような本は少ないですし、同じ手編みをするのなら、もっとバリエーションが欲しいところです。(イギリスのローワンマガジンなどでは5サイズのパターンが載っています。)そこで、こういう機能があったらどうでしょうか。

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まず、元となるデザイン情報をWebサーバで公開します(1)。ユーザが体型情報を入力し、デザイン情報と体型情報を元に計算するプログラム(2)が、ユーザの端末で最適な編図(3)を作成します。

これに似たWebシステムはすでに存在しています。例えば、コンピュータメーカのデルでは、購入者がWeb上から入力した部品情報をもとに、ただちにカスタマイズしたパソコンを工場で組み立てて直送するという販売形態を実現しています。私たちもデルコンピュータを利用していますが、やはりお仕着せの製品ではなく、自分の思ったようなセットを入手できるというのはとてもありがたいことです。

しかし、編図はパソコンのように何十種類かの部品を組み合わせるだけ、というようなものではありません。ですから、実現にはかなりの困難があります。完全な機能を実現することはおそらく難しいでしょう。しかし、このアイデアの一部の機能でも実現できれば、本当の初心者を含めて、誰でも、自分の思うサイズのセーターが編めるようになるのです。これはチャレンジしてみる価値があると思います。

インターネットは、双方向メディアというように言われますが、このような機能はまさに双方向性を生かしたものになります。上手く行くかどうかわかりませんが、私たちの「電脳編図」計画、どうぞご期待ください。

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