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ヘリンボーンの手袋 ホームへ
ツイード糸で編むヘリンボーン柄手袋の編み方を解説します。

herringobne1-s.jpg 「たた&たた夫のヘリンボーン手袋」、ついに完成しました。 一見簡単そうに見えるこの手袋を形にするのには本当に苦労して、ずいぶん長い時間がかかってしまいました。

私達の作品はシンプルなものが多く、やすやすとデザインできそうに思えるかもしれませんが、細部の造形を決めるのは結構大変で、糸の選定からスワッチ編み、フィット感、着丈・袖丈・縁の模様や大きさのバランス、と形になるまでにはなにかと苦労が多いのです。 この手袋はそのような見た目のシンプルさと造形の難しさが一致しない作品の典型のようなもので、全体がシンプルなシルエットになるようにするために、逆に面倒な計算が必要となっています。 これは、編む立場から考えても同じで、一見機械編みのように単純なので、簡単に編めそうに思うかもしれませんが、この手袋は私達が編んだ手袋のなかでも難しい方です。初心者にはとてもお勧めできません。

この手袋はクラシックなヘリンボーン(Herringbone にしんの骨)柄で、機械に掛けるのは難しいネップの入ったツイード糸を使って編み込みをしています。ざらっとした風合いが手編み独特の雰囲気となっており、立体造型のために手を通すとぴったりと指になじみ、しかもとても暖かい手袋です。 手編みの手袋というとどうしてもカジュアルな雰囲気のものが多く、フォーマル系統の服に合わせるのは大変ですが、この手袋はジャケットやコートともコーディネイトできます。 (そもそも、この手袋を作ったのは、そういうかっちりした服装向けのニット手袋がないことが不満だったからです。)

この手袋の原点は、なんといってもサンカ手袋にあります。結果的には全く違った雰囲気になりましたが、サンカ手袋によって総編み込み手袋というものがあり、それがはめやすくて暖かいということを知らなければ、こういう手袋を作ってみようという気にはならなかったとおもいます。 しかしサンカ手袋はほぼ完璧な造型で、これに対抗できるようなオリジナルデザインとなると容易ではなく、いつの間にか時間が過ぎてしまいました。総編み込み手袋の造型と模様の両方を決めようとしても、あちらを立てればこちらが立たずということになりがちで、いろいろと考えている最中にも、サンカ手袋というのは本当によくできているものだと何度となく感心させられました。

しかし、あえてサンカ手袋の欠点を探せば、今の感覚からすれば少し模様がうるさいということでしょう。そこで模様は単純化する、しかし、はめごこちのよさは妥協しない、というコンセプトで作った総編み込み手袋がこの作品です。

なぜ総編み込み手袋が難しいか

総編み込みの手袋が難しいのは編地の性質に原因があります。 herringfailure.jpg 普通のメリヤス編みに比べて、二色編み込みの編地は(1)編地が分厚くなる。(2)横方向の伸縮性がなくなる。という特徴があります。セーターなどでは、これは大きな問題とはなりませんが、手袋の場合は決定的な違いとなります。

初心者向けの手袋は、私たちの「はじめての手袋」のように、まず筒状に編み、指先を分け、親指は胴部分から直に編み出します。このような封筒状の手袋でちゃんとはめられるのは、メリヤス編みの伸縮性が助けになっているからです。同じことを総編み込み手袋でやったらどうなるか?あえて試しに編んでみました。(写真右)しかし、予想通りまったくダメです。たたはショップでは合う指輪がなかなかないほど指が細いのですが、それでもこの手袋には指が通りませんでした。外から見た感じでは結構指幅があるようなのですが、実際には内側にはほとんど隙間がありません。また、手の周りも窮屈で親指を手のひら側に押し付けてやっと入るという感じです。

つまり伸縮性がないということは、編地自体をある程度手の形に沿うように造作を行う必要があるということです。特に指の部分が問題で、甲周りに比べると指周りの合計は、理論計算で約1.4倍にもなります(下図)。しかも編み込みによって地厚となっているため、編地の内側の周囲で考えるとこれよりもさらに余裕が必要となります。

指周りと甲周りの差
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実はサンカ手袋の三角柱編みはこれを解決するための手法だったのです。サンカ手袋の指の又部分にある三角マチはサンカ手袋の特徴と言われていますが、本質的に重要なのは指を太く編むという要請に応えるということであり、指の付け根の三角マチはその造型を調整するために導入されたものです。この部分はサンカ手袋の造型のうちキズとなる部分だと思います。そのキズ部分をうまく目立たない指の付け根に押し込んで、ほかの部分の造型を決めたのがサンカ手袋の優れたアイデアです。ですからそのキズ部分を特徴と言われるのはもしかすると、草葉の陰で古のデザイナーが苦笑しているのではないかという気もします。

fingertop.gif私達の手袋は、サンカの三角マチの代わりに、両側に指幅の半分のマチを作り、すぐに消さずに指先までそのまま伸ばします。その後、マチを減目で消し、それから幅方向を減目で半分に減らし、最後はメリヤスはぎで始末するという造形にしています(右図)。このようにしたのは、これが指先に最も近い造形ではないかと思ったからです。実際にはこんな細工をしても、どれほど効果があるかは分からないのですが、細部に到るまでこだわるというのはサンカ手袋から影響された姿勢だと思います。

全体のシルエットは、手首部分をやや長く伸ばし、ゴム編み部分を無くして指先までまっすぐにヘリンボーンが通るようにしました。このために、全体が布地のようにドレッシーな雰囲気になります。ゴム編みを無くした分、手首は造形そのもので細くしています。またラインが指先まで通るのは四指でなく、五指すべてになっています。下左の写真を見ていただくと、親指の付き方の自然さでそれがわかると思います。親指の付け根に増目ラインが出るところがまったくありません。このシンプルさのツケは掌側にやってきます。下右の写真を見てもらうと、もともと親指のヘリンボーンは手の内側の人差し指部分から始まり、親指の付け根の増目に押されて甲側へねじれて行きます。拇指球あたりを過ぎたところから今度は人差し指部分の増目によって、親指と人差し指の又が形作られていきます。表のシンプルさを保つために、内側に造形が集中し、その増目部分を汚くしないために、内側に茶色の二目ラインを通して、そのラインは指の又部分で別れて、それぞれの指のマチの縁取りに繋がって行きます。

指の太さは、親指が最も太く、小指が最も細く、それ以外の指がその中間になっています。また、指の始まる位置も、小指と他とではすこしずらしています。つまり、できるかぎり手の形に忠実に作ろうとしました。サンカ手袋と同様、平置きすると指先がやけにモタモタした感じに見えるのですが、手にはめるとぴったりと無理なくフィットします。機械編みの手袋はどうしても指部分のマチが少なくなってしまい、この手編み手袋のようにフィットしているのにどこも締め付けられないというようには出来ていません。指先が締め付けられないこと、これが暖かさの秘密です。

herringdetail.jpg herringpalm.jpg

パターンというのは、出来上がってみるとなんでもないのですが、どれくらいの段数のにどの位置にどれくらいの目数を増やす必要があるか、それが可能かどうか、またそうしたときにはめ心地や造形にどういう影響があるか、模様はちゃんと繋がるか、など、すべてが手探りでした。紙の上で計算して良さそうでも、編み上がるまで本当に手袋として使えるか不安でした。伸びゲージでフィット感のあるものは本当にヒヤヒヤものです。それだけに、出来上がったこの手袋の着用感の良さはなによりも嬉しいものがありました。

注意

herringswatch.jpgこの手袋はレディス用ですが、デザイン的にはメンズでも大丈夫です(むしろマッチする?)ので、メンズ用にアレンジしようとされる方があるかもしれません。その際、現在4+4のヘリンボーンを5+5に変えればよいと思うかもしれませんが、一つだけ指摘しておきたいのは、4+4に比べて5+5のヘリンボーンは、はるかに編むのが面倒だということです。私達も、この作品を作るときに色々なヘリンボーン柄をチェックし、5+5のスワッチも編んでみました(写真右)。しかし、この5+5は難しいためあきらめました。4+4ならパターンを全段暗記できますが、5+5ではまず無理でしょう。しかも、下の段を参考にすることがし難いパターンですので、サンカのデュークパターンよりもずっと編み難いパターンです。間違いが分かるのがかなり編み進んでからというのもいやらしいですし、そのくせ編み間違いはやけにくっきりと目立ちます。5+5のヘリンボーン手袋を編んでみようとされるという方は、このあたりをよくご理解の上で、チャレンジしてください。

使用糸

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メーカーRowan
糸名Rowanspan 4ply
素材ウール100%
重量・長さ25g 148m
色番号702(ベージュ) 703(茶)
使用重量各25g(左右一組分)

使用糸は、Rowanspan 4plyです。細い芯糸に小さなウールのネップを混入させてツイード調にした毛糸です。 このために手紡ぎ風の荒いテーストが出て、編地に手編み独特の風合いが生まれます。 ざらっとした肌触りなのですが、いやらしいチクチク感はなく、ウール100%のために保温性にもすぐれていて、手袋などの小物をクラシックな感じで仕上げたいと思ったら、この毛糸は外せません。去年は定番ツイード風の配色が多かったのですが、今年(2002年)になってビビッドな配色の新色が出て、ますます面白くなってきた感じのする毛糸です。

使用編針

2号棒針4本を使っています。ゲージは10センチ四方で40目×44段です。出来上がり寸法は、長さ約23.5センチ、甲周り17センチです(婦人Sサイズ)。手袋のサイズはゲージで調整してください。

編み方(右手の編み方を説明します。左手は左右対称に編んでください。)

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作り目〜手首部分

茶色の糸で64目を作ります。全体を輪にして、茶色で裏目を一段編みます。3段目からは、下記の模様編みAを16段編みます。編み始めは小指側になります。

模様編みA
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親指部分の増目

19段目からは、18段目の41目と42目の間を下の編図のように増目していき、36段の間に24目を増やします。下図の黒い四角が増目部分です。増目の方法は自由ですが、下の段からの編み出し増目が編みやすいと思います。ねじり増目でも構いません。

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親指の編み方

編み始めから33目〜57目(合計24目)を針にとり、それ以外の目を休めます。親指の甲側に糸を付け、最下図の親指の輪編みの模様で輪編みをします。輪編みの最後(親指の付け根部分)で4目を茶色で巻き増目して増やします。 頭頂部は最下図のように減目します。残った10目は5目ずつ二本の針にとり、メリヤスはぎします。

四指の編み進み

休めていた目を針に戻し、模様編みを続けます。親指の巻き増目の部分で4目を拾います。下の模様編みBのように16段編み進みます。

模様編みB
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小指の編み方

編み始め8目と編み終わり8目を針に残し、他の目を休めます。最下図の小指の輪編みのように、小指と薬指の間で4目を巻き増目して、輪編みにします。 頭頂部は最下図のように減目します。残った10目は5目ずつ二本の針にとり、メリヤスはぎします。

三指の編み進み

残しておいた目を針に戻し、下図のように小指の巻き増目部分で4目拾いながら、下記の模様編みCのように輪編みを4段編みます。

模様編みC
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その他の指の編み方

薬指・中指・人差し指の順に、輪編みをします。指の間は4目の巻き増目を行い、となりの指を編むときに4目を拾います。指先は最下図のように減目します。残った10目は5目ずつ二本の針にとり、メリヤスはぎします。

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左手の編み方

右手の左右対称ですが、指を編むときに糸をつけるのは手の平側になります。



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